ワクチンや時短,ロックダウンだけが感染症対策か?  コロナ対策は尽きていない

首都圏をはじめ,全国で感染者が急増している.ワクチン接種は間に合わず,飲食店の時短営業を含むまん延防止措置や緊急事態宣言でも効果が見えないことから,政府や自治体の中から「策が尽きた」との声も聞こえる.ロックダウンしかない,との声も,行政だけでなく,感染症・公衆衛生専門家の中からも聞こえてくる.
 
本当にそうだろうか? 
 
新型コロナウイルスの感染がどのように起こるのか,その機序への科学的理解は着実に進んできた.今では,主たる感染経路は飛沫を含むエアロゾル感染(空気感染)であることが明らかになっている.そうであるならば,物理学的に感染抑止対策は難しい問題ではない.
 
ロックダウンしかすべが無かった100年前と違い,現代には科学的知見に加えて,空気感染を防ぐ様々な手段がある.布マスクしかなかった以前と異なり,現代にはウイルスを99%以上ろ過できる不織布素材がありマスクに応用されている.窓開けやドア開けと異なり,冷房や暖房で冷えた/暖まった空気を損なわないように換気をする「熱交換換気」装置(機械換気装置)もある.さらに,熱交換換気装置がない場所でも活用でき,ウイルスを高効率にろ過できる空気清浄機もある.機械換気装置は多くの場合,1時間に2回の窓開けより換気量も多い.
 
空気感染は,感染者の口腔から空間に放出されるエアロゾルが空間に滞留する量に比例して起こる.感染者が不織布マスクを着けることで,その放出されるエアロゾルの量を大きく減少させることができる.しかし,完全にゼロにはできないため,一定量のエアロゾルが空間に滞留することになる.そのエアロゾルは熱交換換気装置(あるいは一般の換気装置)で換気を行うことで,濃度を薄めることができる.換気装置がない室内では,(ドアや窓開けに加えて)空気清浄機を設置することで,エアロゾルをろ過し,濃度を薄めることが可能である.科学的に考えれば,実に単純で当たり前だ.数理科学的には「釣り合いの式」と捉えることもできよう.
 
このような対策は,飲食店などの時間短縮などと異なり,経済的な負担が小さく,公平かつ持続可能な点で理想的な対策であろう.しかるに問題は,このような理想的かつ確実な対策が社会に広く周知されていないことにある.
 
不織布マスクの有効性について,政府や自治体が市民に広く呼びかけた,という話は私は殆ど聞いたことがない.担当大臣が記者会見でぼそっと呼びかけたくらいだと思う.機械換気装置も,オフィスビルで管理者が適切に管理をしている場合は問題ないだろう.しかし,大学や中小企業などで,機械換気装置を従業員らが操作する状況では,これが適切に活用されていない場面が多い.そもそも「普通換気」と「熱交換換気」の違いが分からず,換気をすると(夏は)クーラーの効きが悪い,などの理由で換気装置を止めている場合も多い(熱交換換気を使えば温度上昇を抑えながら換気ができることを理解していない).さらに熱交換フィルターのメンテナンス清掃を何年も行っていないために,運転させても空気が入れ替わらない「密閉」状態になっている大学もあちこちで報告されている(うちの大学もそうだった).空気清浄機のろ過風量(性能)は風速に比例するから,風速を「強」で使えば「弱」の何倍も高い性能を発揮できるが,設置するだけで風量には気を使っていない場合も多い.
 
現代の私たちには,ロックダウンしか方法がなかった以前とは異なり,空気感染を制御・抑制するための様々な科学的手段・道具がある.でも,その「道具」を活用できていないのが日本の現状だ.仮に換気装置や空気清浄機がない,あるいは足りない場合でも,既存の扇風機やエアコンに,一定のウイルスろ過能を持つフィルターを張ることもできる.HEPAフィルターのような性能がなくても,一定のろ過効率があれば,滞留するエアロゾルを減らすことができる.
換気装置や空気清浄機の活用については,室内環境を専門とする建築学の専門家が,すでに優れた研究を続けている.その知見を最大限活用することで,よりよい対策ができるだろう.
 
「策が尽きた」というのは,ここに述べたように明らかな間違いである.1世紀前の野蛮な対策である「ロックダウン」を行う前に,直ぐにできること,抑制効果が確かに期待できることがある.パンデミックがこれ以上拡大するする前に,適切な対策が速やかに取られんことを.

(注) 猛暑の中,不織布マスクを混雑していない屋外で着用する必要はないだろう.

    密集していない屋外では外し,必要な場面で適切に装着すれば十分だと思う.

関連論文:「コロナ禍での財産制限にかかわる科学的知見の不定性」 判例時報 2021年2月1日号

 “Economic irreversibility in pandemic control processes: Rigorous modeling of delayed countermeasures and consequential cost increases”

本文章は,JST Researchmap上の記事よりの転載です.

https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/118525/93319439c8d8d4340cb922d160d33f0f?frame_id=763327

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